Open Storage 2023-拡張する収蔵庫-持田敦子 拓く 2019-2023
約1,000m²の元鋼材加工工場・倉庫を活用した「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」で保管する大型現代アート作品の一般公開「Open Storage 2023―拡張する収蔵庫―持田敦子 拓く 2019-2023」を、2023年10月27日(金)から11月5日(日)までの6日間 開催しました。
2019年度、重厚長大な作品に挑む若手アーティスト支援を目的とした公募を行い、持田敦子を新参画アーティストとして迎えました。2021年にはMASKに新たな入口を出現させた《拓く》を制作。2022年にはその入口と巨大倉庫エリアを接続し、場所・空間の意味や捉え方を変容させる壮大なインスタレーション作品《Steps》を展開しました。
一連のプロジェクトの集大成となる本年は、《拓く》に続く空間で《Steps》の彫刻的なフォルムを追求しました。また会期中には、MASK収蔵作家3名によるトークイベントを開催。大規模な作品やプロジェクトを手掛けるMASK収蔵作家の3名が、それぞれのキャリアを振り返りながら、アーティストとして生きること、制作活動を続けていくことについて語り合いました。
持田敦子、宇治野宗輝、金氏徹平、久保田弘成、名和晃平、やなぎみわ、ヤノベケンジ
主催:一般財団法人おおさか創造千島財団
企画協力・キュレーター:木ノ下智恵子(大阪大学21世紀懐徳堂 准教授)
特別協力:dot architects、Atelier Tuareg
広報協力:京都芸術大学ULTRA FACTORY、MIWA YANAGI OFFICE、Sandwich、ANOMALY 他
CONCEPT
“拓く”ための軌跡
MASKは、2019年から2023年の5年間にわたり、持田敦子の “それまで”を振り返り、“それから”の創作に携わってきた。
持田は、2019年のMASK初の公募企画において、太田市美術館・図書館で展示した作品の機構をベースに、MASKの側面外壁に穴を開けて回転する壁を挿入する、というプランを提案し、採択された。本提案は、現場検証を経て作品の意味とMASKの可能性を再考した結果、当初の南奥の空間ではなく、“開かずの扉”となっていた正面シャッターを新たな入り口として《拓く》プロジェクトへと発展する。この建屋入口空間の確保には、先入者の既存作品の移動が余儀なくされたため、心太方式に奥へと移動させることとなった。加えてコロナ禍の影響で困難となった制作スケジュールを逆手に捉え、複数年計画へと拡張した。
2020年のスタディでは、単管パイプやベニヤ板を用いた実寸大の仮設壁によって回転扉の最適なサイズを導き出すと共に、持田の学生時代からのほぼ全ての作品履歴を網羅し、以後も最新情報を更新してギャラリー展示を構成している。2021年夏、持田の代表作である《T家の転回》の保存が叶わず解体された。その思いが託されたかのごとく、同年秋、遠く離れた鐵工所の閉ざされていたシャッターが持田初の恒常的作品によって開かれた。工場地帯には似つかわしくない、美術館やギャラリーを象徴する真っ白で巨大な壁の回転扉が出現する。
持田は、この間も、さまざまなプロジェクトに挑み、MASKでは《解体》プロジェクトに資する鼎談企画や、プロポーザルのための“階段”の試作環境などを提供する。それらを経て2022年秋、有機的な螺旋階段は、MASKを縦横無尽に縫うように配置され、数メートルの高さから空間を体験する機会を創出する。
そして2023年、持田の主要テーマである“壁と階段”が連なり、インスタレーション作品としては初の解体を前提としない作品としてMASKに収蔵された。回転扉型壁作品《拓く》は、美術館出展作の機構がMASKの新たな入り口へと変容し、階段作品《Steps》は、国際展の幻のプランが企業のアワードを得て実現され、複数の展覧会に出展されている。本2作品は、サイトスペシフィックという性質は同じであるものの、不動と可変という全く異なる特性を持つ特筆すべき組合せであり、“ここ”にしかない。
持田は、目の前の当たり前を見つめ直し、見えない要因を掘り起こすことから始め、あえて不可能なプランを立て、如何に可能とするかを自問自答する。困難なプロセスについて、さまざまな知恵や技術をもつ“第三者の参画”を得ながら、数々の失敗を糧に実現へと至らしめている。故に、個人の範疇を遥かに超えたダイナミックな作品へと転化を遂げているのだ。これらは単に物理的現象のみならず、権威や制度や規範、地脈や血縁、社会的役割といった見えざる構造を作品を通じて露わにする。持田は、既存の空間や建物に仮設性と異物感の強い要素を挿入し、空間の意味や質を変容させることで、安全・安心過多の社会通念を問い、体験する人の好奇心とリスクへの同意によってのみ成立する、という極めて高度な価値交換をもたらす。人間が自らの可能性を未来に向かって投げ企てるには、蓄積された資財や知識を啓くように、重たい壁の扉を開き、どこにも行くことができない螺旋階段を昇り降りすることで、未知が拓かれる。ということを私たちに示してくれているのだ。
木ノ下智恵子(MASKキュレーター、大阪大学21世紀懐徳堂准教授)
※本文は、2019年〜2022年のMASKコンセプトを再編・修正・加筆している。
Open Storage 2023-拡張する収蔵庫-持田敦子 拓く 2019-2023
ARTIST
2018年、東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。同年、バウハウス大学ワイマール大学院Public Art and New Artistic Strategies修了。2018年から2019年にかけて、平成30年度ポーラ美術振興財団在外研修員としてドイツ、シンガポールにて研修。
プライベートとパブリックの境界にゆらぎを与えるように、既存の空間や建物に、壁面や階段などの仮設性と異物感の強い要素を挿入し空間の意味や質を変容させることを得意とする。