Open Storage 2022
-拡張する収蔵庫-

2022.10.14[sat]~11.13[sun]  12:00-18:00
金土日のみ(計7日間)

約1,000m²の元鋼材加工工場・倉庫を活用した「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」で保管する大型現代アート作品の一般公開「Open Storage 2022―拡張する収蔵庫―」を、2022年10月14日(金)から11月13日(日)までの7日間 開催しました。
2019年度、重厚長大な作品に挑む若手アーティスト支援を目的とした公募を行い、持田敦子を新参画アーティストとして迎えました。そして昨年度、これまで開かずの扉だったMASKのシャッター面を活用した新作《拓く》を制作し、新たな入口を出現させました。
9度目の一般公開となった本年は、持田によるプロジェクトの次なる展開として、“階段”をモチーフとした《Steps》(TERRADA ART AWARD 2021 片岡真実 賞 受賞)を発展させ、入口の作品《拓く》と巨大倉庫エリアを接続する、サイトスペシフィックなインスタレーション作品を制作しました。また会期中には、持田が関心を寄せるプロジェクト型アート作品の「ドキュメントの手法」をテーマに、クリエイションについての考察を深めるトークイベントを開催しました。

入場無料
参加アーティスト:
持田敦子、宇治野宗輝、金氏徹平、久保田弘成、名和晃平、やなぎみわ、ヤノベケンジ

主催:一般財団法人おおさか創造千島財団
助成:芸術文化振興基金
企画協力・キュレーター:木ノ下智恵子(大阪大学21世紀懐徳堂 准教授)
特別協力:dot architects、Atelier Tuareg
広報協力:京都芸術大学ULTRA FACTORY、MIWA YANAGI OFFICE、Sandwich、ANOMALY 他

Open Storage 2022
-拡張する収蔵庫-

CONCEPT

「拓く人」についての考察ー持田敦子をめぐる仮説2

 重厚長大産業地の元鐵工所/倉庫を利活用したアートスペース「MASK」には2つの開口部がある。中央のシャッターは日常的に開閉しているが、南側は、ほぼ“開かずの扉”状態であった。他方、2020年から続く閉塞感がやや変化しつつあった2021年夏、MASK初の公募企画の参画者である、持田敦子の実質的なデビュー作《T家の転回》は、保存が叶わず解体された。同年秋、その思いが託されたかのごとく、持田の巨大な壁の回転扉によって閉ざされていたMASKのシャッターは開かれた。美術館やギャラリー空間の代名詞といえるホワイトキューブを象徴する白壁は、工場地帯の建屋の一部として組み込まれた。既存の建物に仮設性と異物感の強い要素を挿入し、空間の意味や質を変容させる持田が、新たな入り口を“拓いた”のである。そして2022年秋、 “階段”へと続いていく。

 そこで、持田の重要なモチーフである “壁と階段の略歴”をたどってみる。2013年《壁》は、武蔵野美術大学の卒業制作として、公共空間である大学構内の“階段”に、自分を守ってくれる存在であったベッドルームの“壁”を介入させ、初めて挑んだインスタレーションである。階段という場所は「好み/偏愛」とのことだが、“壁と階段”を合体させた本作は、「プライベートをパブリックな場に差し込む」という一貫したコンセプトを体現し、直感的必然性によって今後の指標を導き出したのであろう。2013年《ハルカさんの部屋と金属パイプ》は、アパートの一室に螺旋階段状の単管パイプを組み上げた初出の作品である。2014年《Steps》は、後に続くタイトルが初めて冠され、東京藝術大学に川俣正氏の残したものとされる単管パイプが使用された。2015年《Piercing the Prison》は、留学先のドイツ・バウハウス大学大学院のプロジェクトとして元刑務所だった歴史的建造物の壁構造に挑んだ作品である。2017―2021年《T家の転回》は、「既存の壁を押し回して空間が変化する」というアイディアを、かつて祖母の住んでいた家で実現させた。2018年のキューバでは、想定外の出来事を受け入れる経験を経て創出した本格的な階段作品。2020年《Untitled》は「札幌国際芸術祭2020」のモエレ沼公園内での階段作品として予定するも開催中止となり、ドローイングのみ発表。2021年のTERRADA ART AWARDによって《Steps》が実現する。

 MASKでは、持田の二大モチーフである“壁と階段”の二作品が連なり、(可変するが)初の解体されない作品が収蔵されている。さらに言えば、これまでの“壁や階段”は、何らかの地域性や場所の特性や文脈などと関係していたが、《拓く》と《Steps》は、建物の構造としての “壁や階段” の役割や意味から解放され、独立したオブジェクトとして、フォルムの美しさなどを追求する彫刻作品として如何に成立しうるのか、に挑んでいる。持田自身の新たな可能性を拓く実践を試みている、と言えるのではないか。そしてそれらは、一見するとエンターテイメント性の高いアトラクション的体験を伴う分かりやすさを帯びつつも、実のところ、安全・安心過多の社会通念を問い、体験する人の好奇心とリスクへの同意によってのみ成立する、という極めて高度な価値交換が起きているのだ。重たい壁の扉を開き、どこにも行くことができない螺旋階段を昇り降りした先に見える景色とは。何が、どのように感じられるだろうか。

木ノ下智恵子(本展キュレーター、大阪大学21世紀懐徳堂 准教授)

Open Storage 2022
-拡張する収蔵庫-

ARTIST

メインアーティスト
持田敦子

2018年、東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。同年、バウハウス大学ワイマール大学院Public Art and New Artistic Strategies修了。2018年から2019年にかけて、平成30年度ポーラ美術振興財団在外研修員としてドイツ、シンガポールにて研修。
プライベートとパブリックの境界にゆらぎを与えるように、既存の空間や建物に、壁面や階段などの仮設性と異物感の強い要素を挿入し空間の意味や質を変容させることを得意とする。

宇治野宗輝
《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD, THE HOUSE》※2015年10月 MASKにて滞在制作
金氏徹平
《Games,Dance and the Constructions(Color Plywood)#1》《White Discharge(公園)》《tower(THEATER)舞台セット》他
久保田弘成
《大阪廻船》
名和晃平
《N響スペクタクル・コンサート 「Tale of the Phoenix」舞台セット》
やなぎみわ
《ステージトレーラー「花鳥虹」》
ヤノベケンジ
《ジャイアント・トらやん》 《ラッキードラゴン》 《KOMAINU》※「ジャイアント・トらやんファイヤーパフォーマンス」(2021年)開催風景

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