Open Storage 2021
-拡張する収蔵庫-

2021.10.16[sat]~11.14[sun]  12:00-18:00
土日祝のみ(計12日間)/11月12~14日はクロージングイベント参加者のみ入場可

約1,000m²の元鋼材加工工場・倉庫を活用した「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」で保管する大型現代アート作品の一般公開「Open Storage 2021 ―拡張する収蔵庫―」を、2021年10月16日(土)から11月14日(日)まで開催しました。
8度目の一般公開となった本年は、国際的に活躍する現代美術作家6名の作品展示とともに、公募により選出された持田敦子による新作《拓く》を発表。作家にとって初の中長期的な保管が可能な作品を、建築ユニット・ドットアーキテクツとの協働により制作しました。また会期中には、ゲストトークや作品ツアーなど、持田作品の魅力に迫るプログラムも複数実施しました。
さらに、開館以降シンボル的な作品として親しまれてきたヤノベケンジの《ジャイアント・トらやん》の大阪中之島美術館への寄贈を記念し、クロージングイベントとして作品パフォーマンス&トークイベントを実施。総勢12名の出演者とMASKならではのダイナミックな演出で会期を締め括りました。

入場無料
参加アーティスト:
持田敦子、宇治野宗輝、金氏徹平、久保田弘成、名和晃平、やなぎみわ、ヤノベケンジ

主催:一般財団法人おおさか創造千島財団
助成:芸術文化振興基金
企画協力・キュレーター:木ノ下智恵子(大阪大学 准教授)
特別協力:dot architects、Atelier Tuareg
広報協力:京都芸術大学ULTRA FACTORY、MIWA YANAGI OFFICE、Sandwich、ANOMALY 他

Open Storage 2021
-拡張する収蔵庫-

CONCEPT

「拓く人」についての考察ー持田敦子をめぐる仮説1

 MASK初の公募企画による記念すべき7人目として持田敦子を迎える。持田は、既存の空間や建物に、仮設の壁面や階段など異物感の強い要素を挿入し、空間の意味や質を変容させることで、プライベートとパブリックの境界や当然とされる慣習や規範にゆらぎを与える作品を国内外で発表している。しばし、壁や階段は困難な障害を意味するが、壁はプライベート空間を確保するために位置していたり、階段は昇った先には新たな景色と出会う、といった能動的な行為と道程を意味する存在であるとも言えるだろう。持田はそんな示唆を携えて、世界中が先の見えない状況に憂う日々において未来を志向する機会に恵まれたMASKに、新たな入り口を出現させ、未来を拓くために人々を動かし、閉ざされた今に扉を開ける。

 重厚長大産業地の元鐵工所/倉庫を利活用したMASKには、2つの開口部がある。中央のシャッターは日常的に開閉しているが、南側は2012年にMASKが始動して以来、ほぼ“開かずの扉”状態であった。なぜならば、約1,000㎡という建屋ながらも空間には限りがあり、6名の巨大作品を徐々に収蔵した結果、一つの開口部を塞ぐことが常態化していた。よって新たな参画者を迎えるためには、当然のことながら既存の空きスペースの活用が前提であるため、当初の公募対象エリアは南側奥としていた。勿論、持田による提案も(美術館の企画展で出展した)回転する壁面の機構を指定箇所に設置する、というものであった。しかしながら、現場検証の結果、持田作品の魅力を最大限に活かし、なおかつMASKの可能性を拡張するためには、禁じ手的無謀なアイデアが最善である旨を企画者から提案し、持田は “開かずの扉”に着手するプランを発展させた。さらには、その申出を快く迎え入れた先入者たちの寛容さによって、既存の作品群が心太方式に奥へと移動され、建屋の入り口付近が空いたのである。

 持田は、目の前の当たり前を見つめ直し、見えない要因を掘り起こすことから始め、あえて不可能なプランを立て、如何に可能とするかを自問自答し、困難なプロセスについて、さまざま知恵や技術や条件をもつ“第三者の参画”を得ながら、数々の失敗を糧に、実現へと至らしめている。言い換えれば、作品における本質や細部へのこだわりは確固としながらも、そのプロセスは他者に委ね、アイデアを受け入れることへの抵抗感が少ない。故に、個人の範疇を遥かに超えたダイナミックな作品やプロジェクトへと転化を遂げているのだ。これらは単に物理的現象のみならず、権威や聖域、制度や規範、地脈や血縁、社会的役割といった見えざる構造を見逃さず、作品を通じて露わにし、体験者に気づきをもたらしているのである。しかもその表現形態には、壁や階段、柱や床、梁と屋根といった建築構造が数多く選択されている。いみじくもこれらは、建築基準法の「主要構造部」という定義において、建築物の構造上、重要な役割を果たしている部分のことを示している。持田においても、基本的なこと、本質的なこと、を問うために譲れないことは死守するも、それを言いたいがために他者の関与を許容する。この絶妙な“具合”が物事を拓くことを成立させているのだろう。 

 2021年夏、持田の祖母の家であり代表作である《T家の転回》の保存が叶わず解体された。その思いが託されたかのごとく、同年秋、遠く離れた工場地帯の鐵工所のアートスペースの閉ざされていたシャッターを開くべく巨大な壁面の回転扉を挿入し、現れた新たな入り口によって人々を迎え入れる。

木ノ下智恵子
(本展キュレーター、大阪大学 准教授)

Open Storage 2021
-拡張する収蔵庫-

ARTIST

メインアーティスト
持田敦子

2018年、東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。同年、バウハウス大学ワイマール大学院Public Art and New Artistic Strategies修了。2018年から2019年にかけて、平成30年度ポーラ美術振興財団在外研修員としてドイツ、シンガポールにて研修。
プライベートとパブリックの境界にゆらぎを与えるように、既存の空間や建物に、壁面や階段などの仮設性と異物感の強い要素を挿入し空間の意味や質を変容させることを得意とする。

宇治野宗輝
《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD, THE HOUSE》※2015年10月 MASKにて滞在制作
金氏徹平
《Games,Dance and the Constructions(Color Plywood)#1》《White Discharge(公園)》《tower(THEATER)舞台セット》他
久保田弘成
《大阪廻船》
名和晃平
《N響スペクタクル・コンサート 「Tale of the Phoenix」舞台セット》
やなぎみわ
《ステージトレーラー「花鳥虹」》
ヤノベケンジ
《ジャイアント・トらやん》 《ラッキードラゴン》 《サン・チャイルド》他

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