OPEN STORAGE 2015
宇治野宗輝
《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD, THE HOUSE》
約1,000㎡の工場・倉庫跡に、国際的に活躍する現代美術作家の大型美術作品を保管・展示する「MASK (MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA )」。各年のメインアーティストと共に、MASK発の作品制作・公開を試み、既存の枠組みや価値観を超越する作品群の魅力を伝える「Open Storage」を開催します。
2度目の一般公開「Open Storage 2015」は、メインアーティスト・宇治野宗輝が収蔵作品である《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD》を新たなコンセプトで展開。自身初となる建築スケールの大型作品《THE HOUSE》を、約1ヶ月の滞在制作によって生み出しました。また、クロージングイベントでは「野宮真貴&BIBA」として、宇治野が登場。サウンドスカルプチャーである作品を舞台としたスペシャルステージを繰り広げました。
さらに、新たに収蔵した名和晃平がデザインしたオブジェ《N響スペクタクル・コンサート「Tale of the Phoenix」舞台セット》展示の他、対話型作品鑑賞プログラムなど、多様な鑑賞機会創出への取組みも実施しました。
今後も、MASKの空間・環境だからこそ実現できる実験的な試みにより、「見せる収蔵庫」から、新たな創造価値を発信する「進化し続ける収蔵庫」への可能性の拡張を目指します。
宇治野宗輝 /金氏徹平/久保田弘成 /名和晃平/やなぎみわ/ヤノベケンジ
主催/企画:一般財団法人おおさか創造千島財団
企画協力・キュレーター:木ノ下智恵子
特別協力:dotarchitects、片岡慎策
対話型作品鑑賞プログラム監修:京都造形芸術大学アートプロデュース学科
協力:山本現代、京都造形芸術大学ULTRA FACTRY、ShugoArts、SANDWICH
助成:大阪市
広報連携:公益財団法人 山本能楽堂
宇治野宗輝
《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD, THE HOUSE》
CONCEPT
芸術の超越力の試行
第一章「物質文明のリサーチ」
かつて、鉄鋼業・非鉄金属・造船業といった重厚長大産業の集積地であった“北加賀屋”。現在では、日本の近代化産業遺産群の一つが保存される工業地帯の風景や工場建屋の構造空間、そして歴史的文脈が、芸術の創造力を刺激する。この“特異な場の機能”を批評的に捉えた先駆的実践のプロローグは、近現代の時代的考察や社会的課題について独自の哲学をもつアーティストと共に、祝祭的空間を創り出し、熱い高揚感によって始動した。この熱意を携えながら重層する“芸術の超越力の試行”は、一年毎に主役を迎え、古い過去の文脈や価値観を新しい視座で捉え直す“一章”を紡いでいく。
第一章「物質文明のリサーチ」とは、その主役である宇治野宗輝の命題である。50年代のアメリカ車のデザインが流用された日本のデコトラ部品などを組合せたサウンドスカルプチャー「Love Arm」シリーズ。家電製品や電動ドリルなど世界中どこでも手に入る工業製品と、ターンテーブルやギターといった電気楽器のPOPカルチャーの恩恵を再構成する「The Rotators」シリーズなど。宇治野は、世界各国で、既にあるモノゴトや情報を本来の意味や用途とは異なる捉え方で寄せ集め、試行錯誤の末にも未完成な状態を愉しみながら、最終的には新しい事物を創り出す。
18世紀後半のイギリス産業革命に始まり、欧米諸国を中心とした近代化の波は、20世紀後半にはアジア各国や新興国を覆い、工業機械文明が“世界”を形成している。多種多様なエンジニアリング(工学技術)の功績は、理論的根拠と綿密な計算・設計による代替え可能な技術であるため、安全性、経済性、運用・保守性といった、実用上の合理的観点から、部品や組立品の標準化ないしは規格化が前提となる。こうした工学的規範に根ざした物質文明による合理と均一化は、日常生活の水準を保つ一方で、私たち一人一人のモノゴトへの眼差しや価値観の保守化にも大きく影響を及ぼしていると言っても過言ではない。
そうした工学的規範に根ざした工業機械の物質文明と、パンク・ロックのDIY思考そして芸術の非合理性によるメチエ的技術のアンビバレントな知性と感性を、宇治野は“モノづくり”のテーゼとしている。均質的な工業製品の飽和状態の世界に生き、消費社会のアイデンティティを自認する宇治野は、主流文化では単一の意味や役割しか持たない事物に新しく多様な意味を持たせ、通常の価値観を転倒させる。
かつてシュヴィッタース(※)が、インスタレーションやサウンドアートの先駆けと言える「メルツバウ」や「ウルソナタ」によって、社会制度や美術史に新しい美意識を提唱したように、、、。宇治野は、その後を受け継ぐ者の責務として、あるいは、自らに課した「物質文明のリサーチの不易と日本のPOPカルチャーの幻想」への解答として。宇治野史上、最大かつ最重要作品に挑む。重厚長大産業の集積地にて、ボルトと電化製品達とプレハブ的近代住宅のブリコラージュの機智によって、既知を越える創造性の輪廻転生へと繋げていくのである。
※クルト・シュヴィッタース(Kurt Schwitters, 1887–1948)廃物などを利用したコラージュ「メルツ絵画」や、建築的規模の構成作品「メルツ建築」(Merzbau)など、詩、音響、彫刻、グラフィックデザイン、パフォーマンスなど様々な手法を用い、ダダイスム、構成主義、シュルレアリスムなどの芸術運動で活躍した、ドイツの芸術家・画家。
本企画キュレーター 木ノ下智恵子
(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任准教授)
OPEN STORAGE 2015
宇治野宗輝
《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD, THE HOUSE》
ARTIST
90年代より、装飾トラックの電飾や電動ドリルなどの電気製品を用いて、「Love Arm(ラヴ・アーム)」シリーズをはじめとするサウンド・スカルプチャーを制作し、国内外で数々のライヴ・パフォーマンスを披露。その発展形である「The Rotators」プロジェクトでは、DJ用ターンテーブルに細工を施したレコード盤をのせたローテーターヘッドと、接続する一連のモーター駆動の家電製品による自動リズム演奏装置を制作している。近年では、「UJINO POP/ LIFE」(彫刻の森美術館/2013年)、「ビー・ア・グッド・ボーイ」(山本現代/2013年)など個展を開催。また、大阪では「コヤブソニック」に「野宮真樹&BIBA」のメンバーとして出演(2012〜2014年)。現在放映中の「New Android 5.0 Lollipop」CM出演など、多岐に渡る活動を展開している。
本展では、収蔵作品である《THE BALLAD OF EXTENDED BACKYARD》を拡張させた、建築スケールの大型作品《THE HOUSE 》の制作に挑戦した。