Open Storage 2019-2020-拡張する収蔵庫-
約1,000m²の元鋼材加工工場・倉庫を活用した「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」で保管する大型現代アート作品の一般公開「Open Storage 2019-2020 ―拡張する収蔵庫―」を、2019年10月12日(土)~22日(火・祝)に開催しました。
この年、アーティストが抱える創造環境面の様々な課題解決に向けて、MASK収蔵作品のような大型現代アート作品の制作に果敢に挑む、若手アーティストを支援するため、新規収蔵作品の募集プログラムを始動。
そこで会期中は一般公開に加え、そのキックオフイベントとしてアーティストと作品を取りまく環境について多角的に考えるトークイベントを実施。キュレーターとアーティストそれぞれの立場から、制作・展示の現場が抱える課題を共有し、アーティストにとって安定した作品制作環境を整えるための仕組みとMASKの今後の可能性について議論を重ねました。
主催/企画:一般財団法人おおさか創造千島財団
企画協力・キュレーター:木ノ下智恵子(大阪大学共創機構社学共創本部 准教授)
対話型作品鑑賞プログラム監修:アート・コミュニケーション研究センター、京都造形芸術大学アートプロデュース学科
広報協力: 京都造形芸術大学ULTRA FACTORY、一般社団法人MIWA YANAGI OFFICE、SANDWICH、 ANOMALY 他
CONCEPT
芸術の超越力の試行:
不動の投企による新たな出会いを求めて
重厚長大産業の集積地における5年間は、宇治野宗輝、金氏徹平、久保田弘成、名和晃平、やなぎみわ、ヤノベケンジという、不動の信念と絶え間ない労働によって確固たる地位を確立する表現者によって、芸術の超域力の試行を積み重ねてきた。個々の作品性や主義は異なることは当然ながら、共通点も極めて多い。
組織規範や経済活動の観点からは逸脱しているように思われる営為が、実のところは個人事業主としての不自由さと真の自由を熟知する、自立した生活者である。制作環境を確保するための独自のマネジメント力に長けている。好奇心の源泉を枯渇させることなく、自らの欲望と向き合い続け、膨大な時間や労力を費やす覚悟がゆえに、一癖も二癖もある純度の高い曲者である。時には研究者のごとく綿密な調査や実験を繰り返すことで表現の精度を高めつつも、正誤性ではなく、初期動機の向こう側へ超える未知を基準に物事を取捨選択する。当たり前とされる制度や規範、価値基準や評価について、正面から、斜めから、後ろから、あらゆる角度から捉え直し、不特定多数の“私たち”に揺さぶりをかける。表面的な理解や安直な同意・承認ではなく、答えを導き出そうとする混沌も含めた、非言語のコミュニケーションによって、他者の想像力を駆り立てる。細心の注意を払う慎重さと、無謀とも思える大胆さを併せ持ち、常に真剣でありながらもユーモアに富んだ魅力で周囲を巻き込む能力に優れている。作品に至るまでの膨大な思考を巡らせているために、愚鈍な“評論家”などが太刀打ちでき無いほど、自らを語る言葉を持っている。そして、個人の哲学・思想を表現・発表するという意味において、社会的責任を最前線で追い、極めて公共性と批評性の高い存在であり続けるetc,,,。
嗚呼、なんと、知的にも肉体的にも重労働たることか。そうした労を厭わない人々によって“今のMASKが在る”ということを痛感するとともに、その不動の安心感に浸ることの危うさも承知している。さて、今後、目指すべきものとは何か。
かつて取り組んだことがない、大きな作品を創る機会に愚直に挑み結実させる。舞台装置としての動的なインスタレーションを活用したパフォーマンスなどの創作と公演を行う。芸術祭や国際展に参加するも、大型作品の制作環境や予算の不足と保管場所の確保が難しいので、抱合せて活用する等々。これらはいずれも、行政主導の予算執行といった既存の芸術施設・環境・システムの限界に起因しており、それと比較して自由度の高いMASKだからこそ試行できた事例である。その結果、6名の表現者による作品が集積し、保管・公開が可能となっている。不動の存在による不動産の利活用が地域に新たな特性をもたらしているのだ。「不動産」とは、土地および建物・立木・橋・石垣等の土地の定着物をいう。※注釈1 鉄工所の役目を終えた不動産に定着した巨大作品群によって、工業・製造環境を芸術の実験場へと転用した好例として認知されつつある今、これから何を成すべきか。得難い不動の6名に敬意を払いながらも、そのビジョンを広く提唱し、派生するための未来への投資は不可欠である。資源や空間は限られるが、新たな存在を迎い入れるために既存を見直すこと で、流動性としなやかさが齎されるのではないか。人間が“自らの可能性を未来に向けて投げ出す(投企する)” ※注釈2 ように、蓄積された資財や知識を啓き、閉ざした門を開き、未来を拓く。常に社会や人々に揺さぶりをかけ変容し続ける6名の次代の担い手との新たな試行を着手するために、不動を投企する。芸術の魔力を信じて今を生きる“7人目”との出会いに期待して、、、、。
注釈1:民法第86条第1項(不動産及び動産)の解説
引用元 https://www.minnpou-sousoku.com/commentary-on-civil-law/86_1/
注釈2:M.ハイデッガーによって提唱された実存哲学の一概念。
木ノ下智恵子
(本展キュレーター、大阪大学共創機構社学共創本部准教授)
Open Storage 2019-2020-拡張する収蔵庫-
ARTIST
(2019年度はメインアーティストなし)