Open Storage 2018-思考する収蔵庫-
約1,000m²の元鋼材加工工場・倉庫を活用した「MASK ( MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」で保管する大型現代アート作品の一般公開「Open Storage 2018 ―思考する収蔵庫―」を、10月6日(土)~8日(月・祝)、11月11日(日)に開催しました。
MASK開館5周年を記念し、これまでの「Open Storage」を振り返るアーカイブ展示と、既存建築物を創造拠点へと転用する試みの可能性を検証するシンポジウムを実施。森美術館館長の南條史生氏が国内外の事例を美術の歴史的背景と合わせて解説する基調講演と、民間主導でダイナミックなアート活動を展開している国内施設の代表者が会するパネルディスカッションを行い、各々の活動がもたらす社会的意義や今後の展望について語り合いました。
宇治野宗輝 /金氏徹平/久保田弘成 /名和晃平/やなぎみわ/ヤノベケンジ
主催/企画:一般財団法人おおさか創造千島財団
企画協力・キュレーター:木ノ下智恵子(大阪大学共創機構社学共創本部 准教授)
助成:大阪市、芸術文化振興基金
対話型作品鑑賞プログラム監修:京都造形芸術大学アートプロデュース学科、アート・コミュニケーション研究センター
広報協力: 京都造形芸術大学ULTRA FACTORY、一般社団法人MIWA YANAGI OFFICE、SANDWICH、YAMAMOTO GENDAI 他
CONCEPT
思考する収蔵庫
—目的外利用の創造性にまつわる対話
近代化された私たちの社会は、資源を産業に換える能力と経済活動が発展し、物資が貧しかったとされる時代には想像もし得ないほどの豊かさと好環境を手に入れた一方で、価値観の平均化や供給過多の飽和状態に陥っていると言っても過言ではない。さらに新世紀に入り、高度情報化によって明らかにされた戦争・テロの実体、頻発する自然災害やテクノロジーへの過信が及ぼした人災を目の当たりにし、“私たち”はモノゴトを経済・産業的価値だけではなく、より複雑で多様な価値観によって捉え直すことの重要性に気づいている。
そうした中、世界各地では社会的課題と芸術やデザインの創造力が結びつき、さまざまな試行が実践されている。特に都市再生においては、重厚長大から軽薄短小へ産業構造の変革に伴う低・未利用地域・ブラウンフィールド・工業遺構や、少子高齢化などで統廃合された学校などの休眠施設の創造的活用法が世界的な潮流となっている。
産業革命発祥国であるイギリス・ロンドンの火力発電所の遺構を美術館として再生したテートモダン。フランス・パリのタペストリー工場から軍用地を経て現代創造の場となったパレ・ド・トーキョー。ドイツ北西部ルール地方の製鉄所の全てをモニュメントとして保存活用したIBAエムシャーパーク構想。中国・北京の重工業跡地をスタジオ・ギャラリーなどに再活用した「798芸術区」や、上海・蘇州河沿いの工場・倉庫群のコンバージョンによってデザイン・アートの拠点化した「南蘇州路倉庫」「M50」など。重工業産業地帯が創造拠点や文化・観光産業へと移行した好例は数多く存在する。
こうした産業遺産等の文化的活用は、立地する周辺環境は元より、モノづくりに最適な条件として創り手に重宝される。天井が高く梁のない巨大空間。作業音や機械音などの騒音、耐火や準耐火、匂いや重さなどの許容量。汚れや傷みを厭わない荒々しさの需要。河川舟運から発展した重量貨物や大型車が行き交う交通網等々、、、。工場地域や巨大施設が有する特性と機能美は、芸術の創造性を刺激し、実験性を保証している。加えて、既にあるものを壊して新たに造るスクラップ・アンド・ビルト型から、既存施設の用途や機能を変更して性能を向上させるリノベーションやコンバージョンによる都市の持続再生は、新しさの付加だけではなく、歴史の物証として建物の構造や工法と意匠とともに人々の記憶を次代に残す役割を果たしているのだ。
社会構造と芸術やデザインの関係にみられる、多様な価値を“産み出す業の輪廻転生”は、パラダイムシフトのための必須要件と言える。今後、更なる実践知の蓄積と探求が希求されるとともに、多様な実践を評価する定性的指標の構築や検証も重要となるだろう。
さて、この度、日本における産業遺産等の文化的活用の仕掛け人達が、場所や施設の目的外利用の所以と可能性について深く思考するための収蔵庫に一堂に会し、芸術の超越力が齎す創造的価値にまつわる対話が始まろうとしてる。ただし、ここでは一元的な結論を求めているわけではない。個別の与件に対応したビジョンに基づく場の戦略を立て、終わりのない再生への積極的な介入の意志を尊重し、様々なベクトルが示す多元的な未来の共創を見定めることが核心なのである。
木ノ下智恵子
(本展キュレーター、大阪大学共創機構社学共創本部准教授)
Open Storage 2018-思考する収蔵庫-
ARTIST
(2018年度はメインアーティストなし)