OPEN STORAGE 2016やなぎみわ《ステージトレーラー「花鳥虹」》《黄泉平坂(川中島)》
広さ約1,000m²・高さ9mの鋼材加工工場・倉庫跡地を活用した「MASK(MEGAARTSTORAGEKITAKAGAYA)」で保管する大型現代美術作品の一般公開「Open Storage 2016」を、9月2日(金)から19日(月・祝)まで実施しました。
3度目となる今回は、メインアーティスト・やなぎみわが、MASK収蔵作品であるステージトレーラーを使用した野外演劇公演「日輪の翼」を、MASKと同じく造船業で栄えた北加賀屋の歴史を色濃く残す造船所跡地にて上演。さらに、新作写真作品「黄泉平坂」とドキュメンタリー映像をMASKにて発表。新作展示・公演の同時開催は、日本国内では初めての試みとなりました。
今後も、MASKの空間・環境だからこそ実現できる実験的な試みにより、「見せる収蔵庫」から、新たな創造価値を発信する「進化し続ける収蔵庫」への可能性の拡張を目指します。
やなぎみわ/宇治野宗輝 /金氏徹平/久保田弘成 /名和晃平/ヤノベケンジ
主催/企画:一般財団法人おおさか創造千島財団
企画協力・キュレーター:木ノ下智恵子
助成:芸術文化振興基金、大阪市、公益財団法人朝日新聞文化財団
協賛:株式会社ハートス
協力:KAAT神奈川芸術劇場、京都造形芸術大学ULTRAFACTORY、SANDWICH、YAMAMOTOGENDAI、一本松海運株式会社
後援:歴史街道推進協議会
CONCEPT
芸術の超越力の試行
第二章「彼方へ飛翔する《花鳥虹》の魔力」
湾岸の工業地帯を舞台にした「芸術の超越力の試行:第二章」は、大輪の夏芙蓉の花を抱く舞台車《花鳥虹》を主役に迎える。
舞台トレーラーの持ち主である、やなぎみわは、均質的な美しさを保つ若い女性達とCGで加工した風景を共存させた「Elevator Girl」、公募した他者が空想する半世紀後の老女像を再現した「My Grandmothers」、グリム童話のような残酷さを秘めた少女と老婆が登場する「Fairy Tale」といった、一連の写真作品シリーズで世界的に活躍する“美術家”である。やなぎの美術作品は、日常空間を異化的演劇空間に変容させ、被写体を演出的手法によって一種の物語のワンシーンを創り出し、写真や映像化したものである。近年では主に演劇作品に取り組んできたが、これは美術作品の延長線上にある展開というよりも、やなぎの制作意欲の根幹に辿り着いた結果という見解が妥当だろう。
ラテン語で“暗い部屋”を意味するカメラオブスキュラの原理から派生した光学装置を用いて像を定着させる写真表現と、照明という光で演者を照らし出す演劇表現。この似て非なる表現性を追求し、積層型の制作物を収集・保存・展示する美術館≒ホワイトキューブと、俳優などの流動体の総合を時限付きで上演する劇場≒ブラックボックスの、二つの環境と格闘するやなぎが、満を持して舞台車という稀な劇場主になったのだ。
「移動舞台車」は台湾製であり、本国ではカラオケショーや祭りなどで出動する動く屋外公民館やデコトラ屋台のようなものだという。やなぎに、この異国の装置を日本に招聘する決意をさせたのは、中上健次の小説『日輪の翼』である。物語は熊野の路地の立ち退きを機に七人の老婆と若者が冷凍トレーラーに乗って、伊勢、一宮、諏訪、瀬田、恐山、皇居へめぐる。地縁血縁の業を纏い、トレーラで路地の物語を運ぶ老婆の道行と、耽美的に性とタブーを謳歌する男衆らの営みが交差する巡歴録である。この中上の物語さながらに、台湾で生まれた舞台車《花鳥虹》は、京都・東北・熊野などで装飾され、日本各地を巡る旅公演の母体となり、様々な物語や情景を生み続けている。
そして、その母体が帰還するドックは、中上小説にも登場する日本の近代化を支えてきた肉体労働の熱気や工場音が日常にあり、やなぎの舞台車と同種のユニック車やクレーンなどの重機、土木建築資材が佇む、重厚長大産業の歴史を物語る地帯である。この母港では、本年始動した旅公演から凱旋する《花鳥虹》が、造船所跡地の風景を借景に“翼”を広げ、抗菌・漂白・無味・消臭の価値観によって鈍化した“私たち”を揺さぶる魅惑の出来事が繰り広げられる。
さらに加えて、多数で興するカタルシスの別所では、やなぎが演劇制作の傍で取り組んできた、3.11以後の福島におけるプロジェクトの一端を初披露する。展示作品《黄泉平坂(川中島)》は、かつての桃源郷が仄暗い闇によって隠蔽されてしまった“現代の路地”を、やなぎが手探りで見つけ出し、存在を照らして審らかにするかのように、、、。無用なタブーを打破する雄志を糧に「見ることの倫理」※「を駆使し、異質なものをつなぎ合わせる“やなぎの魔力”が、“私たち”にもたらす内なる飛躍を感受していただきたい。
※アメリカの作家スーザン・ソンタグの著書『写真論』の一節
本企画キュレーター 木ノ下智恵子
OPEN STORAGE 2016やなぎみわ《ステージトレーラー「花鳥虹」》《黄泉平坂(川中島)》
ARTIST
神戸市生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。1990年代後半より写真作品を発表。国内外での個展多数。2009年、第53回ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館代表。2010年より演劇公演を手がけるようになり、2011年から本格的に演劇活動をはじめ、美術館や劇場等で上演を重ねる。大正期の日本を舞台に、新興芸術運動の揺籃を描いた「1924」三部作、明治後期のパノラマ館などを舞台にした「パノラマ」シリーズを、美術館と劇場双方で上演したことで話題を集めた。2013年に「ゼロ・アワー~東京ローズ 最後のテープ」を演出し、昨年北米5都市を巡回。2014年に今回の舞台として使用するステージトレーラーを横浜トリエンナーレで発表。2016年、ついに演劇公演を実現。京都造形芸術大学教授。